『デイホーム土屋吹田』の機能訓練の紹介です!

デイサービスでの口腔体操 ~嚥下と誤嚥について~

デイサービスでは色々な機能訓練を行います。

マシーンを使って身体の部位ごとに動かすものや、集団体操、様々な個別の訓練もあります。口腔体操もその一つです。当デイサービスの口腔体操は、お食事前に皆様に参加していただいております。

食事を提供しているデイサービスはどこでも取り組んでおられると思いますが、初めての方は少し戸惑うかもしれません。とても重要な体操ですので、出来ればお家でもお食事前にやっていただきたいと思っています。

では、なぜ大切なのかお話ししたいと思います。

<誤嚥ってなに?>

食べ物を飲み込むことを嚥下と言います。

食べ物や唾液が本来通るべきでない肺の方へ入ってしまうことを誤嚥と言います。

そして、誤嚥によって起こる肺炎を誤嚥性肺炎と言います。高齢者のかかりやすい肺炎として、テレビや新聞などで見聞きしたことがあるのではないでしょうか。しかし誤嚥しても必ずしも肺炎になるわけではありません。

誤嚥の頻度や量、誤嚥したものの種類など、そして何より、体の健康状態(体力の状態や、咳で取り除けるかなど)が大きく関係してきます。

年齢を重ねても、いかに健康状態を保っていけるかが大きなポイントになってきます。

<飲み込みのしにくさや誤嚥の原因はなに?>

飲み込みのしにくさは下記のような様々な原因によって起こります。

1.加齢に伴うもの

  1. 歯の欠損、義歯
  2. 喉頭位置の低下
  3. のどの知覚低下による嚥下反射の遅れ
  4. のどの知覚低下による咳反射の低下
  5. 唾液量の減少(薬の副作用もあり)
  6. 認知症による食物認識の低下  など

2.疾病に伴うもの

  1. 脳梗塞や脳出血などの脳血管障害に伴う麻痺など
  2. 神経・筋疾患による筋力低下など
  3. 脳腫瘍や頭部の外傷
  4. のどの炎症や腫瘍   など

では1と2についてそれぞれ詳しくみていきましょう。

1-1)歯の欠損、義歯について

歯には食べものを噛み切ったりすりつぶしたりするとても大切な役割があります。

年齢を重ねるとどうしても歯茎の状態が悪くなりやすく、痛みが出たり、歯がぐらついたり抜けてしまったりしてきます。歯の状態が悪くなると、しっかり噛み切れない、噛んですりつぶせないなどが起こり、食欲の低下や低栄養につながってしまいます。

歯が抜けたままにしておくと、本来歯があることによってできる口の中の空間が狭くなり、舌の動きが邪魔されてしまうので、喋りにくさや飲み込みのしにくさの原因になります。

そこで、義歯を使うことでこれらをある程度改善することができます。しかしこの義歯もしっかりと合ったものを使用しないと逆効果。

合わない義歯を使っていると、うまく噛み切れない、すりつぶせない、隙間に入った食べかすにむせるなど、飲み込みのしにくさにつながってしまいます。

歯の状態を健康に保つこと、義歯を調整してしっかりと合ったものを使うことがとても大切です。

1-2)喉頭位置の低下について

喉頭とは簡単に言うと、のどに手で触れた時に硬く出ぱっている部分です。

ここに触れながらゴクンとつばをのみこむと、上に動くのがわかります。飲み込む時はこの喉頭の上への運動が大切なのです。そしてこの上への運動は喉頭につながっている飲み込みに関係する筋肉の動きによって起こります。

さてここで、『年齢を重ねるとお肌にしわが増える』こと実感しませんか?様々な原因がありますが、筋肉が重力に引っ張られて下にたるんでしまうことも一つの原因です。

喉頭も同じで、加齢により喉頭を支える筋肉が下に引かれて、喉頭の位置自体が下がってしまいます。すると、飲み込む時に、よりたくさん上に動くことが必要になるため、飲み込みにくさにつながってしまうのです。

1-3)のどの知覚低下による嚥下反射の遅れについて

熱いものに触れた瞬間にパッと手を引っ込めるのは『反射』によるものです。ゴクンとする飲み込みののどの動きも同じで、『反射』によって起こります。

さて、加齢によって暑さが感じにくくなり熱中症にかかりやすいというのは聞いたことがあるのではないでしょうか。これは加齢によって暑さに対する知覚が低下してしまうために起こります。

飲み込みも同様に、加齢によってのどの知覚が低下してしまうため、飲み込むタイミングがずれてしまったりということが起こります。本来、飲み込む時は一瞬息を止めて、飲み込んだ後息を吐いています。この間0.5~0.7秒と言われています。

知覚の低下によって飲み込みの運動がほんの少し遅れるだけで、本来息を止めるべき時に吸ってしまっていたりずれが生じ、むせやすくなってしまいます。

1-4)のどの知覚低下による咳反射の低下について

お茶を飲んでいてうっかり違うところ(気管)に入りそうになりむせた、風邪の時たくさん咳が出る、など、これらは異物を外に出そうという『反射』によって起こります。

加齢によって知覚が低下することで、この咳反射にも低下やずれが生じやすくなります。痰が増えたと思っていたら就寝中に唾液を誤嚥していたなど、むせのない誤嚥も起こりやすくなるため、注意が必要です。

1-5)唾液量の減少について

健康な成人ではだ液は一日に1.0~1.5ℓ分泌されています。しかし、加齢によってこのだ液の分泌も減少していきます。そのため口が乾きやすくなってしまい、飲み込みのしにくさにつながります。

また、だ液には口の中を洗い流して清潔に保つ働きもあるため、だ液が減少すると口の中に細菌が増えやすくなり、虫歯や歯周病にかかりやすくなってしまいます。また、細菌をたくさん含んだだ液を誤嚥することで誤嚥性肺炎のリスクが高くなってしまいます。

そしてもう一つ重要なのが、いつも飲んでいる薬の副作用でだ液の分泌が影響を受けることがあるということです。

抗うつ薬、パーキンソン病治療薬、降圧剤など服用している場合は、積極的に歯磨きやこまめな水分補給などの工夫をしましょう。

1-6)認知症による食物認識の低下について

食べ物だと認識することでだ液の分泌は促進されます。認知症が進むと食べ物を食べ物だと認識できないことも起こりえます。

食べ物の認識ができないと、食べようとしない、口の中に入ったまま飲み込めないということもよくあります。静かに食事に集中できるよう環境を整え、食事介助は同じ方法でパターン化するなど工夫が必要です。

口の中に入ったら一連の飲み込み動作が起こりやすいこともありますが、ため込みやすいかたは飲み込めたかのチェックや、食後の口腔ケアが大切です。

ここまでは加齢に伴う飲み込みのしにくさについてみてきました。

次は疾病に伴う飲み込みのしにくさについてみていきましょう。

2-1)脳梗塞や脳出血などの脳血管障害に伴う麻痺などについて

飲み込みの運動は、脳の中の飲み込みの反射に関係する部分やのどの筋肉の動きに関係する部分などの様々な働きが関係しています。

脳梗塞や脳出血が脳のどの部分で起こったかによって、現われる症状も様々です。飲み込みの一連の過程のどの部分がどんな状態にあるのかを詳しく検査して、症状にあった専門的なリハビリが必要になってきます。

2-2)神経・筋疾患による筋力低下などについて

パーキンソン病や筋ジストロフィーなど次第に筋力が低下していく疾患があります。筋力低下に伴って飲み込みの状態も変化していくため、これらの疾患についても、飲み込みの一連の過程がどんな状態にあるのかを詳しく検査して、症状にあった専門的なリハビリを行います。

2-3)脳腫瘍や頭部の外傷について

脳の中にできた腫瘍が飲み込みに関係する脳の部位を圧迫したり、交通事故などで脳の飲み込みに関係する部位が障害を負ったりすることによっても様々な症状が起こります。この場合も上記同様専門的なリハビリが必要になります。

2-4)のどの炎症や腫瘍について

のどの炎症については、風邪やインフルエンザの時がイメージしやすいかと思います。のどが腫れて痛む時に飲み込みにくさを感じたり、痛くて水分しかとれないなど経験したことがあるのではないでしょうか。

これらは服薬と安静で改善できます。しかし、高齢のかたは体力低下により歩けなくなることもあり、全身の筋力低下にもつながってしまいやすいため、飲み込みの状態変化にも注意が必要です。また、逆流性食道炎では食後すぐに横にならないなどの工夫も必要です。

のどの腫瘍によって圧迫や狭窄が起こると食べ物が通りにくくなるため飲み込みのしにくさにつながります。この場合手術などで対処後、リハビリを行います。

<口腔体操ってなに?>

これまでみてきたように、年を重ねるというだけで、飲み込みには様々な変化が起こることがわかりました。高齢者は常に飲み込みの際に多かれ少なかれリスクがある状態だと言えます。

加えて、病気にかかるリスクも増えるため、疾病に伴う飲み込みの低下も同時に起こることも考えなければなりません。疾病に対しては予防と薬での治療が第一です。

病気にかかって入院すると長期間行動が制限されることで全身の筋力低下が起こります。のどの筋力低下も例外ではありません。リハビリが必要と判断されたらすぐに開始されます。

さて、これは病気にかかってしまったらの場合です。では、自分で飲み込みの状態をより健康に保つために何かできないの?と思いませんか。ここで登場、口腔体操です。

体育の授業前、ケガの予防とウォーミングアップのために必ず準備体操をしましたね。飲み込みも筋肉の運動と反射によって起こる一連の運動です。飲み込みに関係する筋肉の運動を健康に保つこと、反射が遅れないように起こることのためには、その動きを繰り返してすることが大切です。

飲み込みの準備体操として口腔体操をイメージするといいですね。実際のお食事前に、飲み込みに関係する部位を使って関連する動きをすることで、筋肉の緊張をほぐし、飲み込みに対する心構えができます。

ではここで、デイホーム土屋吹田で行っている口腔体操をその目的とともにみていきましょう。 

デイホーム土屋吹田での口腔体操紹介

1.首の体操 (各3回)

  1. 上下に向ける → 首のストレッチによる嚥下機能の促進
  2. 左右に傾ける → 首のストレッチによる嚥下機能の促進
  3. 左右に向ける(振り返り動作)→ 首のストレッチによる嚥下機能の促進唾液がのどに溜まってしまうことの軽減
  4. 首回し、肩回し → 首と周辺筋のストレッチによる嚥下機能の促進

2.口腔器官の体操 (各5回)

  1. 口を大きく開閉(ア、ムの形)→ 食物の取り込みの改善、こぼしの軽減
  2. 口を横に引く、前に突き出す(イ、ウの形) → 食物の取り込みの改善、こぼしの軽減
  3. 頬を膨らませるへこませる → 食物の取り込みの改善、こぼしの軽減、頬と歯茎間の残渣の軽減、食塊形成の向上、唾液分泌の促進
  4. 舌を前後に出したり引っ込めたりする → 食塊形成の向上、食塊の口腔内保持の向上、のどへの送り込み                の向上
  5. 舌を左右の口角につける → 食塊形成の向上、食塊の口腔内保持の向上、のどへの送り込みの向上
  6. 舌を上下の口唇につける → 食塊形成の向上、食塊の口腔内保持の向上、のどへの送り込みの向上
  7. 舌で口唇をなめる → 食塊形成の向上、口腔内残渣の軽減
  8. 舌で口唇と歯茎の間をなめる → 口腔内残渣の軽減
  9. 舌で頬の内側を押す → 食塊形成の向上、口腔内残渣の軽減

3.深呼吸(各3回)

  1. 鼻から吸って口からはく → 胸部の可動域の向上、喀出力の向上
  2. 大きく吸気し3秒息を止めた後一気に息をはく → 胸部の可動域の向上、気管の入口(声門)閉鎖の向上、   喀出力の向上

 ※深呼吸前に体幹の運動(手を合わせて組み上へ伸ばす・下へかがむ、体を左右にねじる)を実施しても良い。

4.発声・構音

  1. 「アアア」「オオオ」「ハハハ」大きな声で発声 → 気管の入口(声門)閉鎖の向上喀出力の向上
  2. 口唇を使う音「パ行」、舌の先を使う音「タ行」「ラ行」、舌の奥を使う音「カ行」、声帯を振動させる音「濁点(〝)のつく音」などをできるだけ舌が大きな動きになるように組み合わせて構音する。

例:「パカピカプカぺカポカ」「タカチキツクテケトコ」「ガラギリグルゲレゴロ」など
→食塊形成の向上、送り込みの向上、気管の入り口(声門)閉鎖の向上

デイホーム土屋吹田での口腔体操のまとめ

これらの運動は10分程度で簡単にできます。ぜひ毎食前に行ってみてください。

続けることが何より大切です。一緒に頑張って行きましょう‼

執筆:デイホーム土屋吹田 機能訓練指導員/言語聴覚士 渡辺あす香

<参考文献>

藤島一郎:口から食べる―嚥下障害Q&A[第3版],中央法規出版,2002.
大宿茂:頸部聴診法の実際と病態別摂食・嚥下リハビリテーション,日総研出版,2010.

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!